婚約してから、彼のロンドン赴任に帯同した。観光ビザだったから、3ヶ月いて一度帰国して、また3ヶ月いた。
パーティに出た。上流の人間が集まる場だった。
女たちはよく笑った。でも目が笑っていなかった。
「ご主人、今年はボーナスがすごかったでしょう」 「まあ、うちは先月パリに行ったばかりで」
会話が、値踏みだった。
百合は相槌を打ちながら、ふと思った。芸能界と同じだ。場所が違うだけで、同じだ。
楽しくなかった。怒りでもない。軽蔑でもない。ただ、楽しくない。それだけだった。
あるパーティで、郊外の屋敷に招かれた。広大な敷地に、牧場があった。牛肉はハロッズに卸していると聞いた。
車が屋敷の門を入った時、庭に二本のポールが立っているのが見えた。
日本の国旗。イギリスの国旗。
風に、同じ重さではためいていた。
私たちのために、あれを立てた。
百合の胸に、何かが静かに落ちてきた。
でも後で気づいた。あの旗は、彼のために立てられたものだった。彼の父親への敬意を示すために。自分の利益のために。百合は、そこに付随していただけだった。
わかった。でもそれで、あの旗が美しかったことは変わらなかった。
動機が打算でも、旗は風に揺れていた。それは本当のことだった。