六月の、雨の夜だった。
壁の地図を眺めていた。
青い丸を結んだ線。
何かに似ている。
その「何か」が、三週間、わからなかった。
その夜、なぜか聖書ではなく、星座の本を開いた。
キャンプを始めた頃に買った本だった。
奥多摩の夜空で星を覚えようと思って、結局あまり使わなかった本。
ページをめくった。
オリオン座のページで、手が止まった。
三つ星。
ベルトを形成する、三つの星。
エマは本を持ったまま、壁の地図を見た。
青い丸を見た。
立ち上がった。
地図に近づいた。
顔が、紙につきそうなほど近づいた。
違う。
引いて見た。
もっと引いて見た。
部屋の端まで下がった。
あ。
声が出なかった。
息が、止まった。
青い丸を結んだ線は、星座だった。
オリオンではなかった。
もっと古い。
メソポタミアの星図で、川沿いに描かれた、古代の星座だった。
攻撃された遺跡の場所が、その星座と、完全に一致していた。
手が震えた。
星座の本を落とした。
拾わなかった。
スマートフォンで調べた。
その星座の名前を調べた。
古代バビロニアの文献に出てくる星座だった。
意味を調べた。
「天の門」
エマはその場に座り込んだ。
床に座って、壁の地図を見上げた。
副次的な被害ではなかった。
標的ではない、は嘘だった。
遺跡は、正確に、意図的に、選ばれていた。
星座の形に沿って。
天の門を、地上に描くように。
なぜ。
誰が。
何のために。
透のブログの一文が、頭の中で鳴った。
「時が来たら、山へ行け」
時が来たら。
時が、来ている。
透はこれを知っていたのか。
だから消えたのか。
だから行ったのか。
エマは床から立ち上がった。
壁の右側と左側を見た。
イランと、透。
二本の糸が、今、一本になった。
透を見つけなければならない。
趣味の調査ではなかった。
もう、そういうことではなかった。
窓の外で、雨が強くなった。
エマは壁の地図を写真に撮った。
インスタではなく、ノートのアプリに保存した。
それから透のブログを開いた。
十二本の記事を、もう一度最初から読み始めた。
今度は、違う目で読んだ。
暗号を読むように。