十二本を、三回読んだ。
普通に読んでいた時には見えなかったものが、見えてきた。
一本目の記事。
縄文の土器の模様についての考察だった。
螺旋。渦。同心円。
透はこう書いていた。
「この模様は装飾ではない。地図だと思う。どこへの地図かは、まだわからない」
エマはノートに書き写した。
四本目の記事。
サンカと呼ばれた人々についての記事だった。
定住しない。戸籍を持たない。山を渡り続ける人々。
透はこう書いていた。
「サンカは逃げていたのではないと思う。守っていたのだと思う。何を守っていたのかは、まだわからない」
エマはまた書き写した。
七本目の記事。
夢の話だった。
満月の夜に見る、山を走る夢。
その記事の最後に、一行だけ、他の文章と少し違うトーンで書いてあった。
「夢の中で、川が見えた。広い川だった。日本の川ではなかった」
エマの手が止まった。
日本の川ではなかった。
ユーフラテスか。
断言はできなかった。
でも、そう思った。
十本目の記事。
古代の星座についての短い記事だった。
メソポタミアの星図。
エマは息を飲んだ。
透も、星座を調べていた。
記事の中に、こんな一文があった。
「星座は地上に写される。古代人はそれを知っていた。現代人は忘れている」
星座は地上に写される。
エマは壁の地図を見た。
天の門。
攻撃された遺跡の配置。
透は二年前に、すでにこれを知っていた。
十一本目の記事。
短かった。
「会う人がいる。日本ではない場所に住んでいる。その人が、木箱の記号の意味を知っているかもしれない」
日本ではない場所。
どこか。
記事にはなかった。
十二本目。
「行ってくる。」
繋がった。
会いに行ったのだ。
木箱の記号の意味を知っている人に。
日本ではない場所に住む、誰かに。
エマはノートを閉じた。
目を閉じた。
透が会いに行った人物は誰か。
その人物はどこにいるのか。
ブログには書いていなかった。
でも、ヒントはあった。
七本目の記事の、川の夢。
十本目の記事の、メソポタミアの星座。
そして透が調べていた地域の文献は、すべてひとつの場所に集中していた。
イラクだった。
ユーフラテス川のほとりだった。
エマはスマートフォンを手に取った。
航空券のサイトを開いた。
東京からバグダッドへの便を調べた。
画面を見つめた。
長い間、見つめた。
馬鹿げている、とまた思った。
でも今回は、馬鹿げていると思う自分が、馬鹿げている気がした。
検索履歴に、バグダッドという文字が残った。
その夜、エマは初めて、透ではなくイラクの夢を見た。
広い川だった。
日本の川ではなかった。