二ヶ月は、長いようで短かった。
五人はそれぞれの場所へ散った。
そして準備をした。
エリックはオスロの研究室でアルジュナの詩の周波数を測定した。
測定結果を見た瞬間、エリックは椅子から立ち上がった。
「これは」
画面に波形が映っていた。
人の脳波のアルファ波と、完全に一致していた。
覚醒時の、最も澄んだ状態の脳波だった。
エリックは震える手で数値を記録した。
そしてオベリスクの共鳴周波数と比較した。
ソフィアが言っていた数値だった。
真逆だった。
完璧に、真逆だった。
詩がオベリスクに乗れば、周波数が反転する。
理論的に、正しかった。
エリックは歴史学者だったが、その瞬間、物理学者になった気がした。
レイニーはニューメキシコの砂漠に帰った。
祖母の家の裏、岩の下に、石板があった。
子供の頃に見せてもらったことがあった。
記号だらけの石板だった。意味がわからなかった。
今は、読めた。
全部、読めた。
血が、翻訳した。
石板には、周波数の記録だけではなかった。
世界各地のオベリスクの位置が、正確に記されていた。
そして、起動の順番が書いてあった。
レイニーは石板を抱えて、砂漠の夜空を見た。
明るい星があった。
「見ていてくれ」
英語で言った。
それから先祖の言葉で言い直した。
ソフィアはメキシコシティの地下室で、毎晩、自分の手を見た。
緑がかった白い肌。
ネフィリムの血。支配者の血。
これが呪いか、それとも鍵か。
エアの声が来た時、ソフィアは聞いた。
「なぜ私の一族は、離れたのですか」
何世代も前、一人の女性が決めた。子供たちに、支配の側の人間になってほしくないと。彼女は全てを捨てて逃げた。お前はその末裔だ。
「その女性の名前は」
ソフィアという。
ソフィアは長い間、動けなかった。
アルジュナはコロンボに一度帰った。
祖父に会うために。
老人は縁側に座って、夕日を見ていた。
アルジュナが隣に座ると、祖父は振り向かずに言った。
「来た時が来たか」
「知っていたのか」
「お前が生まれた日から、わかっていた」
祖父は空を見上げた。
「詩を全部、覚えているか」
「覚えている」
「体で覚えているか。頭ではなく」
アルジュナは答える前に、詩を唱えた。
最初の一節を唱えた瞬間、祖父が泣いた。
「体で覚えている」
祖父はそれだけ言った。
アルジュナは祖父の隣で、夕日が沈むまで、黙っていた。
透は東京で、普通に会社へ行った。
普通に仕事をした。
普通に同僚と話した。
だが全てが、違って見えた。
オベリスクはないが、東京にも眠りはあった。
過密な情報。絶え間ない刺激。考える暇を与えない速度。
形が違うだけで、同じ機能だ。
透は毎朝、アルジュナの詩を聞いた。
五分だけ。
それだけで、一日の見え方が変わった。
コンラートの監視は続いていた。
透はそれを知りながら、普通に生きた。
泳がせておけばいい。
弥山の言葉を思い出した。
一ヶ月が過ぎた頃、エアから連絡が来た。
透の夢の中に、直接来た。
状況が変わった。
「何が」
第八段階の実行日が、決まった。
「いつだ」
三週間後だ。
透は目を覚ました。
午前三時だった。
スマートフォンで全員にメッセージを送った。
五人全員から、すぐに返信が来た。
全員、眠れていなかった。
全員、同じ夢を見ていた。