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第二章

俯瞰

眞子は弁当箱の蓋を閉めた。

「田中くん、コナンくん好き?」

唐突すぎて、誠は一瞬固まった。

「子供の頃は」

「あのね」と眞子は言った。「コナンくんって、なんで事件を解決できると思う?」

「頭がいいから」

「違う」

眞子は箸を置いた。

「現場を俯瞰してみるからだよ。犯人に感情移入しないし、被害者に感情移入もしない。ただ、全体の構造を見る。それだけ」

誠はコーラを飲んだ。

「住民税の話してたんですけど」

「してるよ」

眞子はまた弁当箱を開けた。

「58万円に怒ってる田中くんは、犯人を追いかけてる。でも犯人が誰か、まだわかってないでしょ」

「政府じゃないんですか」

「政府は道具だよ」

「道具?」

「包丁に刺されたとき、包丁に怒る?」

誠はまた答えられなかった。

しばらく沈黙が続いた。社食のざわめきだけが流れた。

眞子が先に口を開いた。

「田中くん、実家お金持ちでしょ」

「なんでわかるんですか」

「雰囲気」

誠は黙った。

「送金してもらえばいいんじゃん、って思ってる人から見たら、田中くんの愚痴は贅沢に聞こえるかもしれない。でも」

眞子は誠の目を見た。

「それとこれとは、別の話だよね」

誠の胸の奥で、何かが小さく動いた。腐る感じじゃない。別の何かだ。うまく言葉にできない。

「眞子さんは」と誠は言った。「怒らないんですか、税金に」

「最初は怒ったよ」

「今は?」

眞子は少し笑った。昔モデルをやっていたとは、誠にはとても想像できない笑い方だった。飾りのない、ただの笑いだった。

「今はね、面白いと思ってる」

「面白い?」

「仕組みが見えてくると、面白くなるんだよ。怖い映画も、監督の手口がわかったら怖くなくなるでしょ。それと同じ」

誠はコーラの缶を見た。中身はもう空だった。

「どうやって見えるようになるんですか」

眞子は弁当箱を閉めた。立ち上がる前に、一言だけ言った。

「まず、封筒をちゃんと全部読む」


昼休みが終わった。

誠はかばんの中の封筒を、また思い出した。

今度は、捨てたいとは思わなかった。


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