数ヶ月が経っていた。
銀座四丁目のことは、忘れていたわけじゃなかった。ただ、思い出さないようにしていた。理由はわからなかった。
会社のホームページをリニューアルすることになった。担当者が何社か呼んで、提案を聞くことになった。
初回の打ち合わせの日、来客を告げるインターフォンが鳴った。
顔を上げた。
ガラス越しに、男が立っていた。
ああ。
それだけ思った。
向こうも気づいた。一瞬、止まった。でもすぐにドアを開けた。
「黒岩デザイン、黒岩礁と申します。」
名刺を差し出した。百合は受け取った。
「蓮見百合です。よろしくお願いします。」
普通に、打ち合わせが始まった。
一時間後、会議室に二人が残った。
黒岩が資料を片付けながら、言った。
「銀座で会いましたよね。」
百合は少し考えた。
「振り返りましたね、お互い。」
「そうですね。」
黒岩は笑った。屈託がなかった。
「この後、時間ありますか。」
百合は3秒考えた。
「ありますよ。」