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五十音 百 · SF · Short Story · 2026

屋根の上の種族


「また見てる」

ゼラがモニターを覗き込んで言った。

「太陽系第三惑星。例のやつ」

「ああ」

アルはようやく顔を上げた。 モニターには、青い惑星の表面が映っていた。 緑と茶色と、白い雲。そしてその表面に——小さな点のように——無数の生命体が動いている。

「表面に住んでるんだよな」とアルは言った。

「表面に住んでる」とゼラは繰り返した。感慨深そうに。 「惑星の、表面に」

二人はしばらく黙ってモニターを見た。

「信じられる?」とゼラは言った。 「雨が降ったら濡れるんだよ。風が強い日は飛ばされそうになるんだよ。あの恒星が近づいたら灼けるんだよ」

「知ってる」

「なんで表面に住むんだろうな」

アルは肩をすくめた。 「惑星内部に入ればいいのに」

「ほんとそれ」とゼラは言った。 「うちらだって、表面なんか使わないじゃないか。表面は表面。中に住む。それが普通だろ」

「普通だな」

「家建てて、屋根の上で暮らすヤツ、いないよな」

「いない」

「なのにあいつら——」ゼラはモニターを指さした。 「惑星の表面で、一生暮らしてる。 雨に濡れながら。嵐に震えながら。それでも、そこにいる」

アルはお茶を一口飲んだ。彼らの星のお茶は、光の色をしている。

「変な種族だよな」とゼラは言った。

「変な種族だ」とアルは同意した。


しばらくして、アルが言った。

「でも」

「でも?」

アルはモニターに近づいた。ズームした。 第三惑星の表面が、ぐっと近づいてくる。

夜の側だった。

惑星が自転して、表面の半分が影になっている。その影の部分に——光が散らばっていた。生命体たちが作った光。都市の光。川のように、網のように、広がっている。

「きれいだな」とアルは言った。

ゼラが黙った。

モニターの中で、惑星はゆっくり回っていた。 昼の側では、恒星の光が青い海を照らしていた。 夜の側では、生命体たちの光が瞬いていた。

「惑星内部からは」とアルはゆっくり言った。 「これ、見れないな」

ゼラは何も答えなかった。

「星空も見えない。海も見えない。恒星が昇るところも、沈むところも——内部からじゃ、見れない」

モニターの中で、第三惑星の表面を、一筋の光が横切った。流れ星だった。

「あいつら」とアルは言った。 「毎日、これを見てるのか」


ゼラはしばらく、黙ってモニターを見ていた。

「でも雨に濡れるんだよ」と彼はやがて言った。 声が、少しだけ小さくなっていた。

「濡れる」

「嵐も来るんだよ」

「来る」

「それでも」

「それでも、いる」とアルは言った。 「屋根の上に。ずっと」

二人はまた黙った。

モニターの中で、第三惑星がゆっくりと回り続けていた。 昼になり、夜になり、また昼になる。 その表面で、小さな生命体たちが動いている。 雨に濡れ、嵐に震え、恒星に灼かれながら——それでも、そこにいる。

「なあ」とゼラが言った。

「なに」

「もしかしたら、あいつら——」 ゼラはモニターから目を離さずに言った。 「特等席に住んでるんじゃないか」

アルが、ゼラを見た。

「惑星で一番いい場所。眺めが一番いい場所。雨も風も嵐も全部引き受けながら——宇宙を、直接、観察できる場所」

部屋が静かになった。

「デートで一番いいレストランに行くじゃないか」とゼラは続けた。 「眺めのいい、高いとこ。雰囲気がいい、特別なとこ。」

「行くな」

「そこに——ずっと住んでるみたいなもんじゃないか」

アルはモニターを見た。

夜の第三惑星。表面に散らばる、無数の光。その光のひとつひとつの中で、小さな生命体たちが今夜を過ごしている。

「そういうことか」とアルは言った。

「そういうことかもしれない」とゼラは言った。


しばらくして、ゼラがぽつりと言った。

「うらやましいな」

アルが少し笑った。

「うちらも行ってみるか、第三惑星」

「雨に濡れるんだぞ」

「濡れてもいいかもしれない」

ゼラはモニターを見たまま、少しの間、何も言わなかった。

それから言った。

「嵐の日は、どんな景色なんだろうな」

アルは答えなかった。

でも、同じことを考えていた。


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