「また見てる」
ゼラがモニターを覗き込んで言った。
「太陽系第三惑星。例のやつ」
「ああ」
アルはようやく顔を上げた。 モニターには、青い惑星の表面が映っていた。 緑と茶色と、白い雲。そしてその表面に——小さな点のように——無数の生命体が動いている。
「表面に住んでるんだよな」とアルは言った。
「表面に住んでる」とゼラは繰り返した。感慨深そうに。 「惑星の、表面に」
二人はしばらく黙ってモニターを見た。
「信じられる?」とゼラは言った。 「雨が降ったら濡れるんだよ。風が強い日は飛ばされそうになるんだよ。あの恒星が近づいたら灼けるんだよ」
「知ってる」
「なんで表面に住むんだろうな」
アルは肩をすくめた。 「惑星内部に入ればいいのに」
「ほんとそれ」とゼラは言った。 「うちらだって、表面なんか使わないじゃないか。表面は表面。中に住む。それが普通だろ」
「普通だな」
「家建てて、屋根の上で暮らすヤツ、いないよな」
「いない」
「なのにあいつら——」ゼラはモニターを指さした。 「惑星の表面で、一生暮らしてる。 雨に濡れながら。嵐に震えながら。それでも、そこにいる」
アルはお茶を一口飲んだ。彼らの星のお茶は、光の色をしている。
「変な種族だよな」とゼラは言った。
「変な種族だ」とアルは同意した。
しばらくして、アルが言った。
「でも」
「でも?」
アルはモニターに近づいた。ズームした。 第三惑星の表面が、ぐっと近づいてくる。
夜の側だった。
惑星が自転して、表面の半分が影になっている。その影の部分に——光が散らばっていた。生命体たちが作った光。都市の光。川のように、網のように、広がっている。
「きれいだな」とアルは言った。
ゼラが黙った。
モニターの中で、惑星はゆっくり回っていた。 昼の側では、恒星の光が青い海を照らしていた。 夜の側では、生命体たちの光が瞬いていた。
「惑星内部からは」とアルはゆっくり言った。 「これ、見れないな」
ゼラは何も答えなかった。
「星空も見えない。海も見えない。恒星が昇るところも、沈むところも——内部からじゃ、見れない」
モニターの中で、第三惑星の表面を、一筋の光が横切った。流れ星だった。
「あいつら」とアルは言った。 「毎日、これを見てるのか」
ゼラはしばらく、黙ってモニターを見ていた。
「でも雨に濡れるんだよ」と彼はやがて言った。 声が、少しだけ小さくなっていた。
「濡れる」
「嵐も来るんだよ」
「来る」
「それでも」
「それでも、いる」とアルは言った。 「屋根の上に。ずっと」
二人はまた黙った。
モニターの中で、第三惑星がゆっくりと回り続けていた。 昼になり、夜になり、また昼になる。 その表面で、小さな生命体たちが動いている。 雨に濡れ、嵐に震え、恒星に灼かれながら——それでも、そこにいる。
「なあ」とゼラが言った。
「なに」
「もしかしたら、あいつら——」 ゼラはモニターから目を離さずに言った。 「特等席に住んでるんじゃないか」
アルが、ゼラを見た。
「惑星で一番いい場所。眺めが一番いい場所。雨も風も嵐も全部引き受けながら——宇宙を、直接、観察できる場所」
部屋が静かになった。
「デートで一番いいレストランに行くじゃないか」とゼラは続けた。 「眺めのいい、高いとこ。雰囲気がいい、特別なとこ。」
「行くな」
「そこに——ずっと住んでるみたいなもんじゃないか」
アルはモニターを見た。
夜の第三惑星。表面に散らばる、無数の光。その光のひとつひとつの中で、小さな生命体たちが今夜を過ごしている。
「そういうことか」とアルは言った。
「そういうことかもしれない」とゼラは言った。
しばらくして、ゼラがぽつりと言った。
「うらやましいな」
アルが少し笑った。
「うちらも行ってみるか、第三惑星」
「雨に濡れるんだぞ」
「濡れてもいいかもしれない」
ゼラはモニターを見たまま、少しの間、何も言わなかった。
それから言った。
「嵐の日は、どんな景色なんだろうな」
アルは答えなかった。
でも、同じことを考えていた。
了