スマートフォンを閉じようとして、閉じられなかった。
また見てしまった。 「2XXX年、地球滅亡のカウントダウンが始まる」という動画を、最後まで。 コメント欄には「やっぱりそうだよな」「準備しておいた方がいい」という言葉が、川のように流れていた。
やだ。でも気になる。
これが癖だとわかっている。 ニュースで不安になり、SNSを開いてさらに不安になり、YouTubeで予言動画を見てもっと不安になる。 それでも手が止まらない。
窓の外は夜だった。東京の夜は明るすぎて、星が見えない。
見えない星のことを考えていたら、玄関のチャイムが鳴った。
扉を開けると、見知らぬ女が立っていた。
三十代か、五十代か、年齢のわからない顔をしていた。 コートの裾が少し濡れている。 雨は降っていないのに、と思った。
「突然すみません」と彼女は言った。 「少し、話してもいいですか」
目が静かだった。何かをたくさん見てきた人間の目だった。
部屋に入れた。お茶を出した。 彼女はしばらく黙っていた。
「わたし、未来に行ったことがあるんです」とやがて彼女は言った。 「時間を遡って。何度も」
ああ、そういう人か。
YouTubeで見たことがある。タイムトラベラーを名乗る人々。 怪しいとは思う。でもこの女のことは、なぜか怪しいと思えなかった。
「何を見てきたんですか」と私は聞いた。
彼女は一口、お茶を飲んだ。
「終わりを、見てきました」