何百年も先の地球の話だった。
海が変わった色をしていた。空が濁っていた。人の声が少なかった。 生き残った人々は、互いを信用せず、壁の中に閉じこもっていた。
「みんな知っていたんです」と彼女は言った。 「こうなると、ずっと前から」
「知っていたのに」
「知っていたから——そうなったのかもしれない」
彼女の声に、一瞬、奇妙なものが混じった。 自分の言葉に対する疑い、のような。
でも私はその違和感に気づかなかった。 やっぱりそうなんだ。どうしよう。 胃のあたりが重くなっていた。
窓の外から、音楽が聞こえてきた。 どこかの部屋の。大きくない音だったが、はっきり聞こえた。
うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ。
彼女が、その音に耳を傾けた。
「Adoですね」と私は言った。
「今の時代に一番響く歌だ」と彼女は言った。独り言のように。 「語りは、語る者の本質を映す。歌も、同じ。ヒットするとき、それはその時代の叫びです」
私は窓の外を見た。誰かがあの歌を聴きながら、何かを感じている。 私も、不安な動画を見ながら、何かを感じている。
「つまりわたしが怖い動画を見るのも」
「あなたの中に、怖さがあるから」と彼女は言った。静かに。 「怖いから、怖いものを引き寄せる」