「エジプトの神官たちは知っていたんです」と彼女は続けた。 「信じたことが現実になる、と。だから庶民から隠した」
「なぜ隠すんですか」
「自分たちだけ、良い人生を送りたかったから」
彼女は少し笑った。悲しいような笑い方だった。
「単純でしょう。でもその『自分たちだけ』という発想が、すでに何かからずれている。地球が創られたとき、その願いは——ともに創り、ともに喜ぶことだったから」
「啓蒙書にも書いてありますよね」と私は言った。「引き寄せの法則とか」
「書いてある」と彼女は言った。 「でも読んで知っても、体感しないと届かない」
しばらく沈黙があった。
「古代エジプトに、ネフェルウという神官がいました」
名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが動いた。知らない名前のはずだった。
「その人は塔の上で歌った。言葉のない歌を。 それを聴いた人々は、なぜかわからないまま、泣いたり笑ったりした。 でも長老たちに閉じ込められて、死にました」
「なぜ」
「怖かったんでしょう。自分たちが持っていない何かを、その人が持っていることが」
彼女はお茶の湯気を見ていた。
「ネフェルウでさえ、殺された。知っていて、歌えていて、それでも」
部屋が少し暗く感じた。