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第三章

知っていた

「エジプトの神官たちは知っていたんです」と彼女は続けた。 「信じたことが現実になる、と。だから庶民から隠した」

「なぜ隠すんですか」

「自分たちだけ、良い人生を送りたかったから」

彼女は少し笑った。悲しいような笑い方だった。

「単純でしょう。でもその『自分たちだけ』という発想が、すでに何かからずれている。地球が創られたとき、その願いは——ともに創り、ともに喜ぶことだったから」

「啓蒙書にも書いてありますよね」と私は言った。「引き寄せの法則とか」

「書いてある」と彼女は言った。 「でも読んで知っても、体感しないと届かない」

しばらく沈黙があった。

「古代エジプトに、ネフェルウという神官がいました」

名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが動いた。知らない名前のはずだった。

「その人は塔の上で歌った。言葉のない歌を。 それを聴いた人々は、なぜかわからないまま、泣いたり笑ったりした。 でも長老たちに閉じ込められて、死にました」

「なぜ」

「怖かったんでしょう。自分たちが持っていない何かを、その人が持っていることが」

彼女はお茶の湯気を見ていた。

「ネフェルウでさえ、殺された。知っていて、歌えていて、それでも」

部屋が少し暗く感じた。


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