それは、玄さんと米軍基地の中を出入りするようになって、まだそれほど経っていない頃のことだった。
夕方、フェンスの近くで、知り合いの空軍兵、ジェームスと立ち話をしていた。普段は人懐っこく、片言の日本語で冗談を言っては笑うような青年だった。何の変哲もない、いつもの会話のはずだった。
気づいたら、シャツの下に手が入っていた。
声が、出なかった。体が、固まった。何が起きているのか分かっているのに、知りたくなかった。
——どれくらいの時間だったのか、よく覚えていない。記憶というのは、都合よくできている。恐怖の輪郭は、十年経った今でもうっすら残っているのに、時間の長さだけは、すっぽり抜け落ちている。