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第七章

計画の全体

エレズは話し始めた。

祠の前で。

杉林の中で。

川の音を聞きながら。


「計画は、私が生まれる前から、あります」

透とエマは黙って聞いていた。

「文書があります。非常に古い文書です。組織の最上層だけが持っている。私は断片しか見ていない。でも、三十年間の仕事で、全体が見えてきました」

「どんな計画ですか」とエマが聞いた。

「預言を、成就させる計画です」

「聖書の」

「そうです」

エマは膝の上で手を組んだ。

「やっぱり」と小さく言った。


エレズは続けた。

「最上層の人間は、聖書を預言として読んでいない。設計図として読んでいます」

「設計図」と透が繰り返した。

「ハルマゲドンを、起こすための設計図です」

「起こすため」とエマが言った。「待つためではなく」

「そうです。彼らは待っていない。作っています」


風が吹いた。

杉が揺れた。

三人はしばらく黙った。


「遺跡は、なぜ標的なんですか」と透が聞いた。

「二つの理由があります」

エレズは地面を見た。

土だった。

奥多摩の土だった。

「一つは、記憶を消すためです」

「記憶」

「あの遺跡群には、計画より古い記憶が残っている。人類が、別の生き方をしていた時代の記憶です。その記憶が残っている限り、人間は思い出せる」

エマが顔を上げた。

「思い出せる」と繰り返した。

「何を」

「同じだということを」


エマの目が、変わった。

エレズはそれを見た。

この女性は、すでに知っていた。

体で知っていた。


「月のことも、知っていますか」とエマが聞いた。

エレズは少し驚いた。

「知っています」

「忘却装置として」

「そうです。遺跡にある記憶は、月の周波数を相殺する可能性がある。だから消す必要があった」

エマの目が、また変わった。

「原っぱの朝」と小さく言った。

「月が沈んだ直後でしたか」とエレズが聞いた。

エマはうなずいた。

「そうだと思いました」

エレズは静かに言った。

「2012年以降、月の管理が変わった。だから今、気づく人間が増えている」

透が言った。

「エアが」

エレズはうなずいた。

三人は少し黙った。

同じことを、それぞれの場所で、それぞれの方法で知っていた。


「二つ目の理由は」とエレズは続けた。「天の門を、地上に描くためです」

「星座の形に」と透が言った。

「知っていましたか」

「エマが気づきました」

エレズはエマを見た。

「地図を作ったんですね」

「壁に貼りました」とエマは言った。「青い丸を結んだら、形になりました」

「正確に気づきました」

「天の門を描いて、どうするんですか」とエマが聞いた。

「召喚です」とエレズは言った。

沈黙があった。

「何を」と透が聞いた。

エレズは祠の記号を見た。

螺旋を見た。

「彼らが神と呼ぶものを、呼び込もうとしています」

「神」とエマが言った。

「彼らが言う神です。本当の意味での神かどうかは、私にはわからない」


川の音が、続いていた。

鳥が、一羽飛んでいった。


「イエスのことを、知っていますか」とエマが聞いた。

エレズは少し間を置いた。

「組織の中では、別の話として知っていました」

「本当のことを知っていましたか」

「断片は、知っていました」

「なぜ言わなかったのですか」

「言える立場ではなかった。でも」

エレズは祠の記号を見た。

「マリアとイエスの話は、月の忘却を超えた繋がりの話だと、ずっと思っていました」

エマが静かに言った。

「同じだと思っていたんですね」

「そうです。形は違っても、同じだと」


「いつですか」と透が聞いた。

「停戦が終われば、次のフェーズに入ります。ユーフラテス川沿いの遺跡群が、次の標的です」

「どのくらい時間がありますか」

「わかりません。でも、長くはない」


エマが口を開いた。

「止められますか」

エレズは正直に言った。

「一人では、無理です」

「三人では」

エレズは透を見た。

透はエレズを見た。

「わかりません」とエレズは言った。「でも、やらなければ、確実に止まらない」


エマは祠の記号を見た。

螺旋の中心を見た。

長い間、見た。

それから言った。

「記号の意味を、知っていますか」

「知りません」とエレズは言った。

「螺旋は、答えです」

「何の答えですか」

エマはエレズを見た。

真っ直ぐ見た。

「同じだという答えです」

エレズは螺旋を見た。

中心から外へ。

外から中心へ。

同じ線が、繋がっていた。

切れていなかった。

どこまでも、繋がっていた。


「彼らが召喚しようとしているものも」とエマは続けた。「同じものだと思います」

「どういう意味ですか」

「神も、人間も、遺跡も、ユーフラテスも、あなたも、私も、全部同じものです。それを思い出せば、召喚する必要がなくなる」

「なぜ」

「すでに、ここにあるから」


エレズは黙った。

長い間、黙った。

杉を見た。

根を見た。

梢(こずえ)を見た。

その間の幹を見た。


三十年間、空にいた。

根がなかった。

でも今、土の上に座っていた。

奥多摩の土の上に。

同じ土の上に、透とエマがいた。


「私は」とエレズは言った。

声が、少し変わっていた。

自分でもわかった。

「三十年間、間違えていました」

透もエマも、何も言わなかった。

「でも、今日ここに来ました」

「そうですね」と透が言った。

「それで、十分だと思います」とエマが言った。


風が止んだ。

杉が、静かになった。

川の音だけが、あった。


エレズは初めて、深く息を吸った。

奥多摩の空気だった。

湿っていた。

緑の匂いがした。

悪くなかった。

初めて来た時も、そう思った。


「何から始めますか」と透が聞いた。

エレズは三人の顔を見た。

透。

エマ。

そして、自分。

空から見る者。

地から探す者。

その間に立つ者。


「文書があります」とエレズは言った。「計画の文書です。私が持ち出せるかもしれない」

「それが外に出れば」と透が言った。

「計画が、計画ではなくなります」

「人間の意志だとわかる」とエマが言った。

「そうです。神の意志ではなく、人間の意志だとわかります」


エマは立ち上がった。

祠の前に立った。

記号を見た。

螺旋の中心を、指でなぞった。

触れた瞬間、何かが変わった気がした。

気のせいかもしれなかった。

でも、気のせいとは思えなかった。


「やりましょう」とエマは言った。

振り返った。

透とエレズを見た。

朝日が、杉林の間から差し込んでいた。

三人の顔を、同じ光が照らしていた。


同じ光だった。

ずっと、同じ光だった。