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第七章

もう一度、またから考える

幸はプランターの前に戻った。

 夜になっていた。 窓の外は暗く、プランターのトマトは夜風に静かに揺れていた。

 スーパーで買ったトマトの種から生まれた、1メートルの植物。

 廃棄されるはずだった種が、土の中で眠り、芽を出し、茎を伸ばし、またから新芽を出し、脇から花を咲かせ、実を結んだ。

 廃棄されるはずだったものが、命になった。

 幸はそこに、何かを感じた。

 本来の人間——一寸法師のような小さな存在——も、ある意味で「廃棄されるはずだったもの」だったのかもしれない。 遺伝子改変によって、本来の姿を失った。 逆さまにされた。頭が下から上へ。またが上から下へ。

 でも、命は続いた。

 改変されながらも、本来の遺伝子は薄まりながらも、残っている。

 植物のまたから新芽が出るように、何度でも、新しい命は生まれる。

 脇から花が咲くように、何度でも、実を結ぶ。


 幸はノートを取り出した。

 書き始めた。証拠はない。 全部、自分の頭の中の話だ。 脳みその中の思考回路が作り上げたフィクションだ。

 でも、トマトは1メートルに育っていた。

 またから芽が出て、脇から花が咲いていた。

 スーパーで買ったトマトを食べた時に、誰かがこれを設計したとは思わない。 でも、設計されたかのように、精巧に、繰り返し、同じ原理で育つ。

 ヴォイニッチ手稿も、同じかもしれない。

 誰かが書いた。何かを知っていた者が。 その知識がどこから来たのかは、わからない。 この世界の知識ではないかもしれない。

 でも書かれて残った。

 100年以上、誰も読めなかった。

 でも、図は残っている。

 植物の図が。女性の図が。星図が。

 見る者が見れば、わかる。

 読める者には、読める。


 幸はノートに書き続けた。

 夜中の三時になっていた。

 窓の外で、トマトが揺れていた。

 またから出た新芽が、夜風の中で、静かに揺れていた。

 明日も、新しい芽が出るだろう。

 脇から、花が咲くだろう。

 実が成るだろう。

 種が生まれるだろう。

 その種を、誰かがまた土に埋めるだろう。

 循環は、止まらない。



この作品は完全なるフィクションです。 登場する仮説・考察は著者の想像によるものであり、実在の団体・人物・事実とは一切関係ありません。