「人間には知識があるから」と彼女は言った。 しばらくしてから。 「感じる前に、考えてしまう」
「考えてしまう」
「猫は考えない。目の前に小さいものがいる。それだけ。体が応答する。それが——」
彼女は窓の外を見た。
「それが、最初の神が願ったことだったのかもしれない」
私は何も言わなかった。
「宇宙の始まりに、強烈に願った意識体がいた。共に創りたい、共に喜びを分かちあいたい、と。その願いが振動になって宇宙に広がった。そして愛が加わって、地球が生まれた。人が生まれた」
「愛が加わって」
「愛だけが——最後まで、届きにくい」と彼女は言った。静かに。 「知識は伝えられる。でも愛は、体感するしかない。猫みたいに、目の前のものに、体が勝手に動くみたいに」
部屋の空気が、少し変わった気がした。 変わったというより——薄くなった、という感じ。 余分なものが、どこかへ行ったような。