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第四章

病棟の話

金曜。

まどかは仕事帰りに、少し疲れた顔をしていた。

「今朝、担当してた患者さんが、亡くなったの」

文香は何も言えなかった。

「いいの、話しても大丈夫。もう7年もこの仕事してるから」

まどかはコーヒーカップを両手で持った。

「最後にね、患者さんがよく言うことがあるの。決まって同じようなこと」

「なに」

「"もっと稼げばよかった"は、あんまり聞かない」

文香は少し驚いた。

「じゃあ、なんて」

「"あの時、ちゃんと電話しておけばよかった"。"あの子が小さいとき、もっと一緒にいればよかった"。"喧嘩したまま、会わなくなった人がいる"」

まどかはカップを置いた。

「みんな、後でって思ってたんだよ。まだ時間はあるって。でも、時間には、"まだある"っていう保証が、実は1秒もないの」

文香はスマホを見た。母親のLINE。

その場で、返信した。

「今度の日曜、久しぶりにご飯食べに行かない?」

すぐに既読がついた。

「ほんと?行く行く!」

短いやり取りだった。でも、胸の奥が、少し軽くなった。


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