金曜。
まどかは仕事帰りに、少し疲れた顔をしていた。
「今朝、担当してた患者さんが、亡くなったの」
文香は何も言えなかった。
「いいの、話しても大丈夫。もう7年もこの仕事してるから」
まどかはコーヒーカップを両手で持った。
「最後にね、患者さんがよく言うことがあるの。決まって同じようなこと」
「なに」
「"もっと稼げばよかった"は、あんまり聞かない」
文香は少し驚いた。
「じゃあ、なんて」
「"あの時、ちゃんと電話しておけばよかった"。"あの子が小さいとき、もっと一緒にいればよかった"。"喧嘩したまま、会わなくなった人がいる"」
まどかはカップを置いた。
「みんな、後でって思ってたんだよ。まだ時間はあるって。でも、時間には、"まだある"っていう保証が、実は1秒もないの」
文香はスマホを見た。母親のLINE。
その場で、返信した。
「今度の日曜、久しぶりにご飯食べに行かない?」
すぐに既読がついた。
「ほんと?行く行く!」
短いやり取りだった。でも、胸の奥が、少し軽くなった。