水曜、文香は仕事の合間に、まどかの言葉を思い出していた。
利息がつかない元本。
昼休み、文香はスマホを見た。母親へのLINE。まだ返していない。
後でいいや。
そう思った瞬間、はっとした。
これだ。
木曜の夜、また二人で会った。
「昨日、まさに"後でいいや"って思った瞬間があったの」
「何に対して?」
「母親へのLINE返信」
まどかは頷いた。
「それ、双曲割引っていう現象だよ」
「なにそれ」
「人間はね、"今"の1時間と、"来週"の1時間を、同じ重さで感じられないのよ。今、楽な方を、実際の価値以上に大きく感じてしまう。来週の自分は、なんだか他人みたいに感じてしまう。これは双曲割引そのものというより、その原因の一つと言われてる話なんだけど…」
「他人?」
「未来の自分を、赤の他人くらい遠くに感じてる人が多いの。だから、"未来の自分に払わせよう"って、簡単に先延ばしできる」
文香はコーヒーを飲んだ。
「LINEの返信、2分で終わることなのに、なんで後回しにしたんだろう?」
「2分の面倒くささが、今の自分にとっては、来週母親が寂しい思いをすることより、大きく見えたから」
文香は黙った。
「これ、責めてるわけじゃないよ。人間は、みんなそうなるように出来てる。だからこそ、意識してブレーキかけないと、際限なく先延ばしちゃう」