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第三章

双曲割引

水曜、文香は仕事の合間に、まどかの言葉を思い出していた。

利息がつかない元本。

昼休み、文香はスマホを見た。母親へのLINE。まだ返していない。

後でいいや。

そう思った瞬間、はっとした。

これだ。

木曜の夜、また二人で会った。

「昨日、まさに"後でいいや"って思った瞬間があったの」

「何に対して?」

「母親へのLINE返信」

まどかは頷いた。

「それ、双曲割引っていう現象だよ」

「なにそれ」

「人間はね、"今"の1時間と、"来週"の1時間を、同じ重さで感じられないのよ。今、楽な方を、実際の価値以上に大きく感じてしまう。来週の自分は、なんだか他人みたいに感じてしまう。これは双曲割引そのものというより、その原因の一つと言われてる話なんだけど…」

「他人?」

「未来の自分を、赤の他人くらい遠くに感じてる人が多いの。だから、"未来の自分に払わせよう"って、簡単に先延ばしできる」

文香はコーヒーを飲んだ。

「LINEの返信、2分で終わることなのに、なんで後回しにしたんだろう?」

「2分の面倒くささが、今の自分にとっては、来週母親が寂しい思いをすることより、大きく見えたから」

文香は黙った。

「これ、責めてるわけじゃないよ。人間は、みんなそうなるように出来てる。だからこそ、意識してブレーキかけないと、際限なく先延ばしちゃう」


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