火曜の夜、文香は大学時代の友人、秋山まどかと、駅前のカフェで待ち合わせた。
まどかは総合病院の緩和ケア病棟で、看護師をしている。会うのは半年ぶりだった。
まどかの携帯は、テーブルの上に、ずっと画面を伏せたまま置かれていた。
「まどか、電話とか気にならないの?」
「この一時間は文香のために取ってあるから」
「なにそれ、かっこよすぎ」
まどかは笑った。
文香はスクリーンタイムの話をした。週42時間、という数字を見せた。
まどかは驚かなかった。
「そんなもんじゃない、みんな」
「まどかも?」
「私はもっと少ないよ。仕事柄」
「なんで」
まどかはコーヒーを一口飲んだ。
「時間って、お金と違うから」
「お金とどう違うの」
「お金は、貯金できる。増やせる。利息がつく。今使わなければ、来年もっと大きくなって戻ってくることもある」
文香は頷いた。
「時間は、貯金できない。今日1時間節約してても、明日2時間になって戻ってこないでしょ?ただ、消えるだけ」
「当たり前じゃん、そんなの」
「当たり前なんだけど、みんな、お金と同じ感覚で扱ってる。"今は忙しいから、後で"って。時間には"後で"貯めておける口座はないのに」
文香は自分のスマホを見た。画面が光っていた。誰かのSNS投稿の通知だった。
「時間って、いわば、利息がつかない元本なんだよ。使っても使わなくても、毎日、同じだけ勝手に減っていく。銀行に預けておくっていう選択肢自体が、そもそもない」