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第二章

元本

火曜の夜、文香は大学時代の友人、秋山まどかと、駅前のカフェで待ち合わせた。

まどかは総合病院の緩和ケア病棟で、看護師をしている。会うのは半年ぶりだった。

まどかの携帯は、テーブルの上に、ずっと画面を伏せたまま置かれていた。

「まどか、電話とか気にならないの?」

「この一時間は文香のために取ってあるから」

「なにそれ、かっこよすぎ」

まどかは笑った。

文香はスクリーンタイムの話をした。週42時間、という数字を見せた。

まどかは驚かなかった。

「そんなもんじゃない、みんな」

「まどかも?」

「私はもっと少ないよ。仕事柄」

「なんで」

まどかはコーヒーを一口飲んだ。

「時間って、お金と違うから」

「お金とどう違うの」

「お金は、貯金できる。増やせる。利息がつく。今使わなければ、来年もっと大きくなって戻ってくることもある」

文香は頷いた。

「時間は、貯金できない。今日1時間節約してても、明日2時間になって戻ってこないでしょ?ただ、消えるだけ」

「当たり前じゃん、そんなの」

「当たり前なんだけど、みんな、お金と同じ感覚で扱ってる。"今は忙しいから、後で"って。時間には"後で"貯めておける口座はないのに」

文香は自分のスマホを見た。画面が光っていた。誰かのSNS投稿の通知だった。

「時間って、いわば、利息がつかない元本なんだよ。使っても使わなくても、毎日、同じだけ勝手に減っていく。銀行に預けておくっていう選択肢自体が、そもそもない」


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