← あなたの預金、いくらですか 目次

第一章

通帳

その週の金曜日、誠は久しぶりに通帳記入に行った。

 最近はアプリで見られるので、通帳を持ち歩く習慣はとうになくなっていた。 でも、なぜだか無性に、紙に印字されたものを見たいと思った。 理由はわからない。

 ATMが通帳を吸い込み、耳障りな音を立てて何行かを印字して、吐き出した。

 最終行に、八桁の数字があった。

 誠はそれを、駐車場の車の中で、しばらく眺めた。

 誠にとって、それは自分の全財産だった。 というより、そう考えたことすらなかった。 財産かどうかを疑う発想自体、そもそもなかった。

 通帳の後ろのほうに、細かい字のページがある。 誠は十七年間、一度も読んだことがなかった。

↑ 目次に戻る