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第三章

卵の山

ある日、インターネットが繋がらなくて困っている知人を助けてやってくれないか、と玄さんに頼まれた。

日曜日、文庫本を五冊持って、約束の喫茶店に向かった。

沖縄には「うちなータイム」というものがある。約束の時間など、誰も気にしていない。待ち合わせ時間に電話がかかってきて、「ごめんごめん、今那覇だから、あと1時間で着くわ」と言われ、結局その4、5時間後にやってくる。

それでも誰も怒らない。それが当たり前だから。

信号のない道を渡ろうとするおじいちゃんおばあちゃんがいれば、車はみな止まる。お盆の時期になると、会社の従業員が全員、当たり前のように無断欠勤する。親族の集まりの方が、会社より大事だから。

玄さんは、この島の論理そのものみたいな人だった。

そういう島で、私は半日かけて、ようやく一軒のインターネットを繋いだ。依頼主は、「お金がなくて…」と申し訳なさそうに言った。代わりに、卵をくれるという。

250個か、300個くらいの鶏卵をもらって帰ってきた。 一人暮らしの部屋に、卵の山。 途方に暮れて、近所中、職場中に配って歩いた。 そうしたら、今度はお礼にと、海ぶどうが来た。ビールが来た。お米が来た。パパイヤが来た。バナナが来た。

気づけば、月の食費が1万円もかからなくなっていた。

——玄さんに頼まれごとをすると、いつもこういうことが起きた。お金では測れない何かが、ぐるぐると回り出す。彼自身が、そういう経済の中心にいる人だった。

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