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第一章

古墳にて

第一章「古墳にて」

古墳の前で、颯太はカメラを止めた。

「すみません、今、撮影中で——」

言いかけて、止めた。

レンズの向こうに立っていたのは、 コスプレイヤーではなかった。 装束の古さも、佇まいの重みも、作り物の質感ではない。冠の傾き方ひとつにさえ、迷いがなかった。

颯太はスマートフォンを下ろした。

男は、古墳の頂を見上げていた。 世界最大の墳墓。誰の墓かは、案内板に書いてある。 颯太自身が、今日の動画でその案内板を読み上げるつもりだった。

「汝、この地に住まう者か」

声は静かだった。 けれど、何百年分もの重みが、その一言に乗っていた。

颯太は何かを言おうとして——結局、何も言えなかった。

組織の中で、何が起きているか全部見えていたのに、言えなかったあの日と、同じ感覚だった。

「灯りは、おびただしい」と男は言った。 「されど——」

颯太は、その先を待った。

「煙が、見当たらぬ」

「……まさか」

「如何にも」と男は颯太を見た。 「朕は、この丘に眠る者だ」

颯太は、撮影用の三脚を握ったまま、動けなかった。 51万人の登録者に向けて、毎日のように歴史と経済を語ってきた男が、目の前の歴史そのものに、声を失っていた。


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