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第二章

竈の煙

第二章「竈の煙」

「今は、いつなのか」と仁徳天皇は聞いた。

「2026年です」と颯太は言った。 声が、少しかすれた。 「あなたの時代から、1700年近く——経ってます」

仁徳天皇は、しばらく黙っていた。 スカイラインの灯りを、ひとつひとつ数えるように見ていた。

「あれほどの灯りがありながら」と仁徳天皇は言った。 「なぜ、朕の目には——民の苦しみが、透けて見えるのか」

颯太は、答えることができなかった。 答えを持っていたから、なおさら答えられなかった。

「申し上げても、よろしいですか」

「申せ」

颯太は、深く息を吸った。 いつもなら、ここで止める言葉だった。 カメラの前では、絶対に言わない言葉だった。 けれど、今、目の前にいるのは、視聴者ではなかった。

「今、この国では——『緊急事態条項』というものが、議論されています」

「緊急事態」

「災害や、戦のような大事が起きた時、政府が、国会を通さずに——法と同じ力を持つ命令を、出せるようにする、という話です」

仁徳天皇は、颯太を見た。

「なぜ、それが——民を脅かすのか」

「使い方次第で、何にでもなるからです」と颯太は言った。 「本当に民を守るために使われるなら、誰も反対しません。でも——歴史を見れば、強い力を一度手にした者が、それを手放した例は、多くありません」

「朕の時代は」と仁徳天皇は言った。 「逆であった」

颯太は、顔を上げた。

「民の竈に、煙が立たぬのを見た時——朕は、税を免除した。3年のあいだ、宮の屋根が破れても、直さなかった。非常の時こそ——上に立つ者が、まず差し出す。それが、統治というものだと、思っていた」

颯太は、何も言えなかった。

「今のこの国は」と仁徳天皇は静かに言った。 「非常の時だというのに——民から、先に差し出させようとしているのか」

「……そうなる可能性が、あります」

仁徳天皇は、長い沈黙のあと、スカイラインに目を戻した。

「あの灯りは」と仁徳天皇は言った。 「煙ではないのだな」

「はい」

「ならば——あの光の下で、いったい何人が、息をひそめて、夜を越えているのか」

颯太は、答えなかった。 答えられる数字を、持っていなかった。


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