「朕に、ひとつだけ、教えてくれ」と仁徳天皇は言った。
「はい」
「汝は——それを、知りながら、なぜ、黙っているのか」
颯太の中で、何かが、揺れた。
「言えば——終わるからです」と颯太は言った。 「『陰謀論者』という、レッテルを貼られます。 そうなれば、もう、誰も、俺の言葉を、聞かなくなる」
「ならば、なぜ、調べ続ける」
「言える形を、探しているからです」
仁徳天皇は、しばらく颯太を見ていた。
「朕は」と仁徳天皇は言った。 「民に向かって、税を免除すると、布告したわけではない」
颯太は、顔を上げた。
「ただ、高き丘から、見ていただけだ。竈の煙が、上がっているか、いないか。それだけを、見ていた。そして、見たことに従って、動いた」
「言葉ではなく」と颯太は言った。
「行いだ」と仁徳天皇は言った。 「汝も、すべてを、声高に語る必要は、ないのではないか。ただ——汝が、見たものを、見た通りに、誰かに渡せばよい。渡す相手が、ひとりでもいれば——それは、もう、止まってはいない」
颯太の脳裏に、麻衣の顔が浮かんだ。
月に1度、すべてを話している、あの部屋。
「俺には」と颯太は、ゆっくりと言った。 「渡す相手が、います」
仁徳天皇は、わずかに、頷いたように見えた。
「いま、しばし——この地を、歩いてみたい」と仁徳天皇は言った。
颯太は、戸惑った。
「叶うならば、案内せよ」
