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第八章

朝、ふたたび

第八章「朝、ふたたび」

国民投票の日が、近づいていた。

颯太のチャンネルには、あれから、似たような動画が増えた。 結論を、急がない動画。 歴史を、ただ、差し出すだけの動画。

登録者数は、目立って、増えなかった。

それでも、颯太は、続けていた。

ある夜——いつものように、インターホンが、鳴った。

「颯太だけど」

麻衣が、鍵を開けると、颯太は、いつもの顔で、立っていた。

「投票日、見届けるんでしょ」と麻衣は言った。

「ああ」と颯太は言った。 「でも——結果がどうであれ、もう、いい」

「なんで」

颯太は、靴を脱ぎながら、少し、笑った。

「結果は、国民が、決めることだから」

麻衣は、メモ帳を、開かなかった。

ただ、颯太の隣に、座った。

窓の外、東京の夜景が、いつもと同じように、広がっていた。

颯太は、その光を、見た。

「あの古墳で、最後に言われたんだ」と颯太は言った。 「言葉は、もう、十分に渡した。あとは、お前が選ぶことだ、って」

「選んだの?」

「選んだ」と颯太は言った。 「見たものを、渡すことを」

麻衣は、窓の外を、見た。

光の中に、煙は、見えない。

それでも——どこかの竈で、誰かが、自分の頭で、考え始めている。

それだけで、じゅうぶんだった。

祭りが、どれだけ派手でも。

煙の見えない夜が、どれだけ続いても。

朝は、いつも来る。

そして、誰かが、見ることをやめない限り——渡す手は、止まらない。

2026年某月 堺にて

五十音 百


この物語は、フィクションです。

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