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第五章

製造工場の痕跡

幸は、五稜郭を写真で見たことがあった。

 北海道函館にある、星形の西洋式城郭。 上空から見ると、五つの角を持つ星の形をしている。 幕末に築かれた、日本最大級の西洋式防衛施設とされている。

 でも幸は、あの形を見るたびに、奇妙な感覚を覚えていた。

 あれは、防衛のための形ではない気がする。

 ペンタゴン。アメリカ国防総省の建物も、同じ五角形をしている。

 なぜ、軍事施設が星形なのか。 防衛のためなら、丸い形や四角い形の方が、機能的に理にかなっているはずだ。 なぜわざわざ星形にするのか。

 あるいは——あの形には、防衛とは別の意味があるのではないか。

 星形は、何かを呼び込む形ではないか。

 あるいは、何かを作り出すための形。

 エネルギーを特定のパターンで集め、循環させ、ある目的のために使う形。

 五角形の頂点と頂点の間に走るエネルギーラインを想像すると、それは複雑な循環回路のように見える。 入力があり、変換があり、出力がある。

 生命を作るためのエネルギー装置として、星形は論理的な形ではないか。


 温泉のことを、幸は考えた。

 日本には、異常なほど多くの温泉がある。 世界有数の温泉大国だ。 地熱活動が活発だからだと説明されるが、それだけではない気がする。

 温泉の成分は、場所によって大きく異なる。 硫黄泉、炭酸泉、塩化物泉、鉄泉、放射能泉。 それぞれに、体への作用が違う。

 体への作用が違うということは——体に何かを与えているということだ。

 ミネラルを。熱を。何らかのエネルギーを。

 温泉に入ると、傷が治る。病気が快方に向かう。疲れが取れる。 これは科学的にも認められた事実だ。

 温泉が、体を「修復」するのだとしたら。

 修復できるということは——製造もできるのではないか。

 同じ成分が、同じ熱が、同じエネルギーが、命を作ることに使えるのではないか。

 五稜郭の形をした施設の中に、温泉のようなプールがあって、そこで人間が作られていたとしたら。

 古代の製造工場の痕跡が、世界各地に残っているとしたら。


 ヴォイニッチ手稿の女性たちのページを、幸はもう一度見た。

 緑色の液体の中で、女性たちが管でつながれていた。 管はある者の体から別の者の体へと繋がり、複雑なネットワークを形成していた。

 温泉に浸かっているように見えた。

 まるで、プールの中にいるように。

 もしかしてこれは、製造プロセスの図なのではないか。 人間を作るための施設の、内部構造を描いた図なのではないか。

 植物の図が製造原理で、女性の図が製造プロセスだとしたら、ヴォイニッチ手稿は完全な製造マニュアルになる。