幸は、五稜郭を写真で見たことがあった。
北海道函館にある、星形の西洋式城郭。 上空から見ると、五つの角を持つ星の形をしている。 幕末に築かれた、日本最大級の西洋式防衛施設とされている。
でも幸は、あの形を見るたびに、奇妙な感覚を覚えていた。
あれは、防衛のための形ではない気がする。
ペンタゴン。アメリカ国防総省の建物も、同じ五角形をしている。
なぜ、軍事施設が星形なのか。 防衛のためなら、丸い形や四角い形の方が、機能的に理にかなっているはずだ。 なぜわざわざ星形にするのか。
あるいは——あの形には、防衛とは別の意味があるのではないか。
星形は、何かを呼び込む形ではないか。
あるいは、何かを作り出すための形。
エネルギーを特定のパターンで集め、循環させ、ある目的のために使う形。
五角形の頂点と頂点の間に走るエネルギーラインを想像すると、それは複雑な循環回路のように見える。 入力があり、変換があり、出力がある。
生命を作るためのエネルギー装置として、星形は論理的な形ではないか。
温泉のことを、幸は考えた。
日本には、異常なほど多くの温泉がある。 世界有数の温泉大国だ。 地熱活動が活発だからだと説明されるが、それだけではない気がする。
温泉の成分は、場所によって大きく異なる。 硫黄泉、炭酸泉、塩化物泉、鉄泉、放射能泉。 それぞれに、体への作用が違う。
体への作用が違うということは——体に何かを与えているということだ。
ミネラルを。熱を。何らかのエネルギーを。
温泉に入ると、傷が治る。病気が快方に向かう。疲れが取れる。 これは科学的にも認められた事実だ。
温泉が、体を「修復」するのだとしたら。
修復できるということは——製造もできるのではないか。
同じ成分が、同じ熱が、同じエネルギーが、命を作ることに使えるのではないか。
五稜郭の形をした施設の中に、温泉のようなプールがあって、そこで人間が作られていたとしたら。
古代の製造工場の痕跡が、世界各地に残っているとしたら。
ヴォイニッチ手稿の女性たちのページを、幸はもう一度見た。
緑色の液体の中で、女性たちが管でつながれていた。 管はある者の体から別の者の体へと繋がり、複雑なネットワークを形成していた。
温泉に浸かっているように見えた。
まるで、プールの中にいるように。
もしかしてこれは、製造プロセスの図なのではないか。 人間を作るための施設の、内部構造を描いた図なのではないか。
植物の図が製造原理で、女性の図が製造プロセスだとしたら、ヴォイニッチ手稿は完全な製造マニュアルになる。