もともとのミッションは、単純だった。星々が暗くなっていくなかで、なぜか一つだけ、暗くならない星がある。そこへ行けば、答えが見つかるはずだった。この病を止める、治療法のような何かが。
でも、と雫は思う。あの光の川を、目にしてしまった今、その前提は、静かに崩れていた。
水の子たちは、病ではなかった。星から星へ、命のもとを手渡していく、ひとつの、大きな巡りだった。だとしたら、"暗くならない星"は、いったい何を持っているのだろう。水の子たちを、寄せつけない盾だろうか。それとも──雫は、ふと、まったく違う可能性に、思い当たった。
その星は、たぶん、水の子たちを、拒んでいない。
ただ、恵みが目減りしていくあいだも、たがいに奪い合わずに、分けあう術を、知っていただけなのかもしれない。誰も独り占めしなかった。誰も囲いこまなかった。だから、星の明るさが、揺らがずに済んだ。──そういう星なのではないだろうか。
だとしたら。その星まで、行く意味があるだろうか。
行って、"暗くならない方法"を教わって帰ったところで、それは、道具や薬のように、誰かに配れるものではない。地球に持ち帰るべきなのは、装置でも、技術でもない。ただ、この目で見てきたことそのものだ。──分けあえば、飢えなくて済む。奪いあうから、足りなくなる。恵みが減ることと、人が飢えることは、じつは、同じ意味ではない。
雫は、コハクに、その考えを伝えた。光と、音と、あの∞のしるしを使って、たどたどしく、それでも、できるかぎり丁寧に。
コハクは、長いあいだ、じっと聞いていた。そして、ゆっくりと、脚を動かした。同じことを、コハクも、考えていたのだという。コハクの星もまた、二十三人の仲間を失いながら、遠くの"答え"を求めて、旅を続けていた。けれど、本当に持ち帰るべきものは、はじめから近くにあったのかもしれない、と。
二人は、しばらく、黙っていた。
旅を続ければ、いつか、あの暗くならない星に、たどり着けるかもしれない。そこで、何か新しい発見が、待っているかもしれない。それでも──雫は、静かに、心を決めた。
地球へ帰ろう。
今、自分たちが知ったことを、ふるさとへ届けにいこう。星から星へ、水の子らが、命を手渡していくように。今度は、雫とコハクが、その"手渡し役"になる番だった。
コハクの体の奥が、あの琥珀色に、深く、静かに灯った。同じ答えに、たどり着いたしるしだった。
けれど、二人の帰るべき場所は、同じではなかった。雫は地球へ。コハクは、コハクの星へ。それぞれの故郷は、正反対の方角にあった。
窓の外で、水の子たちの群れが、金星に向かって、なおも静かに流れていく。二人は、その川を見送りながら、それぞれの船の、進む方角を、静かに確かめた。