「そんなの、当たり前でしょ」
月曜の昼休み、経理課の岡本にそう言われた。 岡本は誠より五つ下だが、簿記の一級を持っていて、この会社で数字の話ができる数少ない相手だった。
「当たり前なのか」
「当たり前ですよ。だからペイオフがあるんじゃないですか」
「ペイオフ」
「銀行が潰れたときに、一千万円までは保護されますってやつ。あれ、逆に言えば」
岡本はコンビニのおにぎりを置いて、指を一本立てた。
「一千万を超えた分は、保護されないってことです」
「消えるのか」
「消えはしないです。潰れた銀行の財産をかき集めて、後から何割か戻ってくる。ただ、全額は戻らないかもしれない」
誠は自分の通帳の八桁を思い出した。一千万円は、超えていた。少しだけ。
「岡本、それさ」
「はい」
「金を渡した相手が潰れたら、全部は返ってこないって、それは──」
誠はそこで言葉を探した。適切な言葉が、なかなか出てこなかった。
「──それは、預かってもらってる人の言うことじゃないよな」
岡本は少し黙った。それから、なるほど、という顔をした。
「まあ、確かに。預けてるつもりの人がほとんどですよね」
「岡本は知ってたの?」
「知ってましたけど」岡本は肩をすくめた。 「知ってたからって、他に置き場所ないですし」