その夜、誠は由美に話した。
由美は洗い物の手を止めずに聞いていたが、途中で水を止めた。
「じゃあ何、うちのお金は、うちのお金じゃないってこと」
「そういうことになる」
「でも引き出せるでしょ」
「引き出せる。銀行が潰れなければ。」
「じゃあ、問題ないじゃない」
誠は、何も言えなかった。 たぶん、明日も明後日もATMは動くし、来月の給料も振り込まれる。 なのに、誠には、何かが決定的に違って見えていた。
由美が手を拭きながら言った。
「あなた、最近そういうのばっかりね」
「そうかな」
「税金のときもそうだった。分かったところで、どうにもならないじゃない」
誠は反論しなかった。
ただ、風呂に入りながら、ずっと同じことを考えていた。
どうにもならないから知らなくていい、というのは、たぶん違う。 知らないまま、どうにかなっていると思い込んでいるのが、いちばん危ないのではないか?