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第五章

窓口

翌週、誠は銀行の窓口へ行った。

 特に用事はなかった。 強いて言えば、確かめたかった。 何を確かめたいのかも、よく分かっていなかった。

 順番が来て、若い行員が誠を呼んだ。 名札に「新井」とあった。二十代の半ばに見えた。

「本日はどのようなご用件でしょうか」

「あの、変なことを伺いますが…」 「私がここに預けている金は、今、どこにありますか」

 新井は一瞬止まった。 そして、営業スマイルのまま丁寧に答えた。

「お客さまの残高は、システムで管理されておりまして──」

「いえ、そうじゃなくて。現金として、どこかにありますか」

 新井の目が、少し泳いだ。

 誠は慌てて付け足した。

「責めてるわけじゃないんです。本当に、ただ知りたくて」

 新井はしばらく考えて、それから、教科書を思い出す学生のような顔になった。

「──銀行が保有している現金は、日々の払い出しに必要な分だけです。それ以外は、貸出や有価証券として運用されております」

「じゃあ、私の分の現金は、ここにはない」

「ございません」

 新井は言い切った。誠は、その率直さに少し救われた。

「じゃ、もし、この支店に口座を持っている人が全員、今日一斉に全額おろしに来たら」

「──お応えできません」

「物理的に」

「物理的に、無理です」

 新井はそう言ってから、慌てたように付け加えた。

「ただ、そういうことは起こりませんので」

「なぜ起こらないんですか」

 新井は答えなかった。答えられなかったのだと思う。

 誠は礼を言って、席を立った。

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