翌週、誠は銀行の窓口へ行った。
特に用事はなかった。 強いて言えば、確かめたかった。 何を確かめたいのかも、よく分かっていなかった。
順番が来て、若い行員が誠を呼んだ。 名札に「新井」とあった。二十代の半ばに見えた。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「あの、変なことを伺いますが…」 「私がここに預けている金は、今、どこにありますか」
新井は一瞬止まった。 そして、営業スマイルのまま丁寧に答えた。
「お客さまの残高は、システムで管理されておりまして──」
「いえ、そうじゃなくて。現金として、どこかにありますか」
新井の目が、少し泳いだ。
誠は慌てて付け足した。
「責めてるわけじゃないんです。本当に、ただ知りたくて」
新井はしばらく考えて、それから、教科書を思い出す学生のような顔になった。
「──銀行が保有している現金は、日々の払い出しに必要な分だけです。それ以外は、貸出や有価証券として運用されております」
「じゃあ、私の分の現金は、ここにはない」
「ございません」
新井は言い切った。誠は、その率直さに少し救われた。
「じゃ、もし、この支店に口座を持っている人が全員、今日一斉に全額おろしに来たら」
「──お応えできません」
「物理的に」
「物理的に、無理です」
新井はそう言ってから、慌てたように付け加えた。
「ただ、そういうことは起こりませんので」
「なぜ起こらないんですか」
新井は答えなかった。答えられなかったのだと思う。
誠は礼を言って、席を立った。