歩きながら、誠は考えていた。
なぜ起こらないのか。
法律で禁じられているわけではない。 誰かが見張っているわけでもない。 全員が一斉に確かめに行くことを、止める力はどこにも存在しない。
起こらないのは、誰も行かないからだ。 誰も行かないのは、みんなが「大丈夫だ」と思いこんでいるからだ。 みんなが大丈夫だと思っているのは──誰も確かめないからだ。
誠は立ち止まった。
皆が大丈夫だと思っていることを根拠にして、大丈夫だと思いこんでいる。 そういう、暗黙の約束の上に、誠の十七年分の資産が乗っかっていた。
これって、誰かが仕組んだものなんだろうか?
誠は考えた。
多分、得をしている人は、いる。 それは間違いない。
誠が貸した金で、銀行は貸し出しを行い、その利回りと誠に払う利息との差が、そのまま銀行の利益になる。 誠が「預けている」と思い込んでいる間、銀行は無担保で金を借り続けられる。 得をしていないはずがない。
けれど、新井がそれを設計したわけではない。 支店長でもない。 頭取でも、ない。 この仕組みは、新井が生まれる前から、誠が生まれる前から、既にあった。
得をしている人はいる。 でも、仕組みを作った人は見えない。
誠は、誰かが隠したのだろうか?とも考えた。 けれど、たぶん、それも違う。
約款は誰でも読める場所に印刷してあるし、法律も公開されている。 隠されてはいない。ただ、見ようとする者がいなかったのだ。
そして、誰も文句を言わなければ、その仕組みは稼働し続ける。
薄気味悪かった。