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第六章

暗黙の約束

歩きながら、誠は考えていた。

 なぜ起こらないのか。

 法律で禁じられているわけではない。 誰かが見張っているわけでもない。 全員が一斉に確かめに行くことを、止める力はどこにも存在しない。

 起こらないのは、誰も行かないからだ。 誰も行かないのは、みんなが「大丈夫だ」と思いこんでいるからだ。 みんなが大丈夫だと思っているのは──誰も確かめないからだ。

 誠は立ち止まった。

 皆が大丈夫だと思っていることを根拠にして、大丈夫だと思いこんでいる。 そういう、暗黙の約束の上に、誠の十七年分の資産が乗っかっていた。

 これって、誰かが仕組んだものなんだろうか?

 誠は考えた。

 多分、得をしている人は、いる。 それは間違いない。

誠が貸した金で、銀行は貸し出しを行い、その利回りと誠に払う利息との差が、そのまま銀行の利益になる。 誠が「預けている」と思い込んでいる間、銀行は無担保で金を借り続けられる。 得をしていないはずがない。

 けれど、新井がそれを設計したわけではない。 支店長でもない。 頭取でも、ない。 この仕組みは、新井が生まれる前から、誠が生まれる前から、既にあった。

 得をしている人はいる。 でも、仕組みを作った人は見えない。

 誠は、誰かが隠したのだろうか?とも考えた。 けれど、たぶん、それも違う。

約款は誰でも読める場所に印刷してあるし、法律も公開されている。 隠されてはいない。ただ、見ようとする者がいなかったのだ。

そして、誰も文句を言わなければ、その仕組みは稼働し続ける。

 薄気味悪かった。

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