家に帰ると、娘の彩香がリビングでスマートフォンを見ていた。 高校二年生になっていた。
「お父さん、遅い」
「ちょっと銀行に行ってた」
「ふうん」
彩香は顔を上げなかった。 誠はソファに座って、少しの間、娘の横顔を見ていた。
この子が大学を出るころ、この仕組みはまだ存在しているのだろうか。 たぶん、していると思う。
「彩香」
「なに」
「お金って、どこから来ると思う」
彩香は面倒くさそうに顔を上げた。
「働いたら来るでしょ」
「うん。それは分かる。でも、その来たお金は、その前はどこにあった」
彩香は少し考えて、それから言った。
「……会社?」
「会社の前は」
「知らない。銀行じゃないの」
「銀行の前は」
彩香は黙った。 それから、嫌そうな顔をした。
「なんか変だよ、お父さん」
誠は笑った。
変なのは自分ではない、と言いたかったが、やめておいた。
きっと、自分で気づく日が来る。 ただ、驚くだろう。 だから、なるべく早く気づいてほしい。