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第四章

減っていく島

会社に戻ったとき、時計は夜の九時を回っていた。

甲賀は画面の前に立ったままだった。

「昨日の時点で、19,847件」

甲賀は言った。

「今、19,203件」

「六百件、減ってる」

「一日で」

ハヅキは端末に飛びついた。

「誰が消したんですか」

「消してない」甲賀は言った。「統合されたの」

ログを開いた。処理者の欄には、すべて同じ名前が入っていた。

AUTO-MERGE / 自動統合エンジン

「自動?」

「今月から本稼働してるの。判定パターンを学習して、人間が判断したのと同じ基準で統合する」甲賀は言った。「私が導入を決めた」

ハヅキは甲賀を見た。

「じゃあ、あと三十日で島は」

「消える」

「二万人が」

「二万人は消えない」甲賀は静かに言った。「二万人ぶんの、片方の読みが消える」

ハヅキは息を吸った。

「小原志乃さんは、どうなるんですか」

「三件が一件になる。おそらく、おはらに」

「おぱらは」

「消える」

「証拠なのに?」

「証拠じゃないわ。異常値よ」

甲賀の声には、一切の迷いがなかった。

「橘さん。あなた、こう思ってるでしょう。私が乱暴なことをしようとしてるって」

「……少し」

「じゃあ聞くけど」甲賀は椅子を引いて座った。「小原さんの遺族が、相続の手続きに来たとする。窓口で、私たちはどう答えるの」

ハヅキは答えられなかった。

「『あなたのおばあさまは、システム上、三人いらっしゃいます』?」甲賀は言った。「銀行はどうする。年金はどうする。遺族はどこに頭を下げに行くの」

「……それは」

「決めないことは、優しさじゃない」甲賀は言った。「決めない負担は、必ず、いちばん弱い人のところに落ちる」

ハヅキは、窓口で何度も頭を下げてきた自分を思い出した。

はづき。はずき。

「私は」甲賀は言った。「あなたみたいな人を、もう作りたくないの」

ハヅキは、言葉を失った。

甲賀は、正しかった。

正しすぎた。

その夜、ハヅキは帰らなかった。

深夜二時、フロアにはハヅキ一人だった。

彼女は島のリストを、上から順に眺めていた。

一万九千二百三行。

一行ずつ、人がいる。

橋本さん。中島さん。神谷さん。山崎さん。

読みが二つある人たち。どちらも本物で、どちらも間違いじゃない人たち。

そしてその中に、自分がいる。

[4] 橘 葉月  タチバナ ハヅキ / タチバナ ハズキ

ハヅキは、その行を長いこと見ていた。

「どっちも、私なんだけど」

誰も聞いていなかった。

ハヅキは、統合ボタンにカーソルを合わせた。

押せば、終わる。

自分で、自分をどちらかに決められる。二十四年間、他人に決められてきたことを、自分で。

指が、動かなかった。

「……なんで、押せないんだろ」

そのとき。

画面の隅に、通知が出た。

SHIMA-00:新規レコードが追加されました。

ハヅキは飛び上がった。

「追加!? 減るんじゃなくて!?」

新しい行が、リストの一番下に増えていた。

[19204] 九十九 ―  ツクモ ―  ―
備考:まだ生きてる

「……は?」

備考欄が、続いた。

「島を作ったのは私です。三十年前に」

「会いに来なさい。急ぎなさい。私はもうすぐ死ぬから」

住所が、一行だけ書いてあった。

千葉県の、聞いたことのない地名だった。

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