火曜。
蓮は社食で、涼子の姿を探した。いつもの席にいた。
「昨日の続き、聞いてもいいですか」
「聞く気になったんだ」
「気になって眠れなかったんですよ」
涼子は少し笑って、麦茶を飲んだ。
「高橋くん、エアコンって何してると思う?」
「温度を、変えてる」
「違う」
「え」
「熱を、運んでるの。作ってるんじゃなくて」
蓮は缶コーヒーを持ったまま、動きを止めた。
「夏の冷房はね、部屋の中の熱を、外に運び出してるだけ。作ってるわけじゃない。ただの引っ越し」
「冬は」
「冬の暖房も、本当は同じ。外の熱を、部屋の中に運び入れてる。エアコンって、電気で"熱を作る"んじゃなくて、"熱を運ぶ"機械なんだよ」
「でも冬の方が電気代高いですよね。運んでるだけなら、同じじゃないんですか」
涼子は水筒を机に置いた。
「運ぶ距離が違う」
「距離?」
「冬の外は、寒い。0度とか、それより下のときもある。でも、部屋の中は24度にしたい。その差を、全部エアコンが埋めてる」
蓮は頷いた。
「夏は、外が35度、部屋を24度にしたいとする。差は11度。冬は、外が0度、部屋を24度にしたいとする。差は24度」
「差が、倍以上」
「差が大きいほど、運ぶのに力がいる。しかも」
涼子は少し声を落とした。
「外が寒すぎると、そもそも運べる熱そのものが少なくなる。空気の中に、運べるだけの熱があんまり残ってないから」
蓮はコーヒーを飲んだ。もう半分ぬるくなっていた。
「じゃあ、冬の暖房って、坂道を登るみたいなものですか」
涼子は少し驚いた顔をした。
「よい例え」
「褒められたの、初めてです」
涼子は笑った。