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第三章

作る人

水曜。

昼休みの前に、事件があった。

蓮の部下の一人が、取引先に納期の連絡を忘れていた。取引先から苦情の電話が来た。

蓮は電話を代わり、頭を下げ、その後、部下を会議室に呼んで注意した。

強い口調になった。自分でもわかっていた。止められなかった。

会議室を出たあと、蓮はしばらく廊下で動けなかった。

疲れた。怒ったあとは、いつもそうだ。仕事をした後より疲れる。


昼休み。

蓮は社食で、いつもより勢いよく缶コーヒーを開けた。

涼子が来た。

「疲れてるね」

「さっき、部下を叱りました」

「ふ~ん」

「必要なことでした。でも、疲れました」

涼子は麦茶を一口飲んだ。

「高橋くん、昨日の話、覚えてる?」

「エアコンの話ですか」

「そう。世の中には、二種類の人がいる」

蓮は缶コーヒーを持った手を止めた。

「熱を、運ぶ人と作る人」

「運ぶのと作るのは、違うんですか」

「全然違う」と涼子は言った。「運ぶのは、既にある熱を、動かすだけ。作るのは、ゼロから作り出すこと」

蓮は黙って聞いた。

「怒るのって、ゼロから熱を作ることなんだよ。何もないところに、感情を起こして、声を大きくして、相手にぶつける。全部、自分で作ってる」

「涼子さんは、怒らないんですか」

「怒るよ。でも、しょっちゅうじゃない」

「どう違うんですか、俺と」

涼子は少し考えてから言った。

「高橋くんは多分、いつも作ってる。何か起きるたびに、ゼロから熱を起こして、ぶつけてる。それ、冬の暖房と同じだよ。外がどんなに寒くても、部屋の中を無理やり24度まで温めようとしてる」

「それって、何か、問題あるんですか?」

「問題はない。必要な時もある。でも…」

涼子は蓮を見た。

「電気代、高いよね」

蓮は何も言えなかった。


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