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第四章

涼しさの技術

木曜。

蓮は珍しく、缶コーヒーではなく、水を買った。冷たい水。

社食で涼子の向かいに座った。

「今日は違うんだ」

「なんとなく」

涼子は麦茶を飲んだ。いつも通り。

「涼子さんは、朝、何かやってたりするんですか。いつも冷静だから…」

涼子は少し間を置いた。

「座禅、やってる。毎朝、15分」

「座禅って、じっと我慢することですよね」

「全然違う」

涼子はきっぱり言った。

「我慢は、熱を作っておいて、蓋をすること。座禅は、そもそも作らない練習」

蓮は考えた。

「作らないって、感じないってことですか」

「感じるよ。ちゃんと感じる。でも、感じたことに、すぐ薪をくべない」

「薪?」

「怒りって、最初の一瞬は、ただの火花なの。すごく小さな。そこに、自分で薪をくべ続けるから、大きな火になる。座禅は、薪をくべる手を、止めるための練習」

蓮は水を飲んだ。冷たかった。

「涼子さんの前の仕事、何だったんですか。なんでそんなに詳しいんですか?熱のこと」

涼子は少し笑った。

「エアコンメーカーにいた。設計部門」

「本当に、その道の人だったんですね」

「5年間、COPの数字とずっと向き合ってた」

「COP?」

「1の電気で、何倍の熱を運べるか、っていう数字。今はAPFって言うけどね」

「涼子さんの中の、COPは高いんですね」

涼子は珍しく、少し照れたように笑った。

「そんな風に言われたの、初めて」


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