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第五章

坂道

金曜。

また、部下がミスをした。今度は蓮のミスも重なっていた。取引先へ提出した見積もりの金額が間違っていた。

いつもなら、声を荒げていた。

喉のあたりに、熱いものが込み上がってくるのを感じた。

薪をくべるな。

涼子の言葉を思い出した。

1度、深呼吸をした。 それから、いつもより低い声で言った。

「数字直して、もう一回一緒に確認しよう」

部下は、少し驚いた顔をした。

「今日は、叱らないんですか」

「うん。次回は気をつけよう」

言い終えたあと、蓮は自分でも驚いていた。

疲れてない。

いつもの、怒ったあとの重さがなかった。


昼休み。

蓮は水筒を持って社食に来た。中身は、冷たい麦茶だった。

涼子はそれを見て、少し目を丸くした。

「真似したの?」

「なんとなく」

蓮は麦茶を一口飲んだ。

「今日、部下のミスがあったんですけど、叱らなかったんです」

「どうだった?」

「疲れませんでした。坂道を登らなかったからかもしれません」

涼子は微笑んだ。

「それだよ」

「それって?」

「怒らなかったってことじゃないの。無理に外の寒さに逆らって、部屋を24度に、無理に上げようとしなかったってこと。外の温度に合わせて、微調整できた」

「涼しさって、技術なんですね」

「技術だよ。楽してるわけじゃない。楽そうに見えるだけ」


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