金曜。
また、部下がミスをした。今度は蓮のミスも重なっていた。取引先へ提出した見積もりの金額が間違っていた。
いつもなら、声を荒げていた。
喉のあたりに、熱いものが込み上がってくるのを感じた。
薪をくべるな。
涼子の言葉を思い出した。
1度、深呼吸をした。 それから、いつもより低い声で言った。
「数字直して、もう一回一緒に確認しよう」
部下は、少し驚いた顔をした。
「今日は、叱らないんですか」
「うん。次回は気をつけよう」
言い終えたあと、蓮は自分でも驚いていた。
疲れてない。
いつもの、怒ったあとの重さがなかった。
昼休み。
蓮は水筒を持って社食に来た。中身は、冷たい麦茶だった。
涼子はそれを見て、少し目を丸くした。
「真似したの?」
「なんとなく」
蓮は麦茶を一口飲んだ。
「今日、部下のミスがあったんですけど、叱らなかったんです」
「どうだった?」
「疲れませんでした。坂道を登らなかったからかもしれません」
涼子は微笑んだ。
「それだよ」
「それって?」
「怒らなかったってことじゃないの。無理に外の寒さに逆らって、部屋を24度に、無理に上げようとしなかったってこと。外の温度に合わせて、微調整できた」
「涼しさって、技術なんですね」
「技術だよ。楽してるわけじゃない。楽そうに見えるだけ」