甲賀様
失礼な質問をありがとうございます。
四十年、誰も聞きませんでした。
一九六八年、私は今のあなたと同じ仕事をしていました。
二つの観測所の記録を突き合わせて、食い違いを解消する仕事です。
そのとき、二つの記録が、逆を向いていました。
私は、両方正しいと報告しました。
上は、それを受け取りませんでした。
片方を切る必要があったからです。予算の話でした。
切られたのは、私の師匠がいた観測所でした。
師匠は、そのあと、二度と観測をしませんでした。
私は日本を出ました。
四十年、南半球にいます。
さて。
今回の記録ですが、私は書き間違えていません。
館山の若い方も、おそらく間違えていません。
ただ、これを証明するのは、あなたの仕事です。
私が説明してしまっては、意味がない。
なぜなら、四十年前も、説明はされていたからです。
説明されても、決定は変わりませんでした。
だから今回は、あなたが自分で見つけてください。
見つけたものは、簡単には手放せませんから。
梶
ミサキは、ファックス用紙を、床から拾い上げた。
長い紙が、腕にまとわりついた。
「……ヒントくらい、くれてもいいのに」
そして、最後の一行に気づいた。
用紙のいちばん下に、小さく、追伸が書いてあった。
追伸
こちらの月は、逆さまです。