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第六章

報告書

三週間後。

ミサキは、報告書を室井の机に置いた。

結論:両記録に誤りはない。

室井は、二ページ目まで読んで、顔を上げた。

「甲賀」

「はい」

「これ、通らないぞ」

「なんでですか」

「正しいからだよ」

ミサキは、その言葉の意味が、わからなかった。

「正しいと、通らないんですか」

室井は、報告書を閉じた。

そして、机の引き出しから、別の書類を出した。

ミサキは、それを見た。

共同観測事業 規模縮小案

「……これ」

「三月から決まってた」室井は言った。「二つの観測所を、一つにする。予算だ」

ミサキの手が、冷たくなった。

「じゃあ、私の仕事は」

「片方を切る理由を、作ることだった」

室井は、目を逸らさなかった。

「悪いと思ってる。だが、言えなかった」

ミサキは、しばらく、立っていた。

「切られるのは、どっちですか」

「ダニーデンだ」

「なんで」

「遠いから」

「それだけ?」

「それだけだ」

ミサキは、報告書を、机から取り上げた。

「室井さん」

「なんだ」

「これ、出します」

「通らないと言ってる」

「通らなくても、出します」

「意味がないだろう」

ミサキは、言った。

「四十年前と同じことをやったって、記録に残ります」

室井の顔が、変わった。

「……何の話だ」

「一九六八年です」ミサキは言った。「同じことが、ありました。同じように、両方正しいという報告が出て、同じように、通りませんでした」

ミサキは、報告書を胸に抱えた。

「そのとき報告書を書いた人が、今、ダニーデンにいます」

室井は、何も言わなかった。

長いこと、何も言わなかった。

そして、小さく言った。

「……出せ」

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