三週間後。
ミサキは、報告書を室井の机に置いた。
結論:両記録に誤りはない。
室井は、二ページ目まで読んで、顔を上げた。
「甲賀」
「はい」
「これ、通らないぞ」
「なんでですか」
「正しいからだよ」
ミサキは、その言葉の意味が、わからなかった。
「正しいと、通らないんですか」
室井は、報告書を閉じた。
そして、机の引き出しから、別の書類を出した。
ミサキは、それを見た。
共同観測事業 規模縮小案
「……これ」
「三月から決まってた」室井は言った。「二つの観測所を、一つにする。予算だ」
ミサキの手が、冷たくなった。
「じゃあ、私の仕事は」
「片方を切る理由を、作ることだった」
室井は、目を逸らさなかった。
「悪いと思ってる。だが、言えなかった」
ミサキは、しばらく、立っていた。
「切られるのは、どっちですか」
「ダニーデンだ」
「なんで」
「遠いから」
「それだけ?」
「それだけだ」
ミサキは、報告書を、机から取り上げた。
「室井さん」
「なんだ」
「これ、出します」
「通らないと言ってる」
「通らなくても、出します」
「意味がないだろう」
ミサキは、言った。
「四十年前と同じことをやったって、記録に残ります」
室井の顔が、変わった。
「……何の話だ」
「一九六八年です」ミサキは言った。「同じことが、ありました。同じように、両方正しいという報告が出て、同じように、通りませんでした」
ミサキは、報告書を胸に抱えた。
「そのとき報告書を書いた人が、今、ダニーデンにいます」
室井は、何も言わなかった。
長いこと、何も言わなかった。
そして、小さく言った。
「……出せ」