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第七章

同じ月です

報告書は、受理された。

そして、無視された。

ダニーデン観測所は、その年の十二月に閉鎖された。

ミサキは、担当を外された。

理由は説明されなかった。次の月から、別の現場に回された。

そして、二か月後、ミサキは会社を辞めた。

正確には、朝、起きられなくなった。

半年、何もできなかった。

閉鎖の前日、ファックスが届いた。

ミサキは、もう会社にいなかった。

ファックスは、室井が受け取って、自宅に転送してくれた。

甲賀様

報告書を読みました。

よく書けていました。特に、日時計の一行がよかった。

あれは、私が四十年前に書けなかったことです。

結果は、ご存じの通りです。

ですが、これだけは言っておきます。

四十年前、私の報告書は、通らなかっただけでなく、破棄されました。

記録に残りませんでした。

今回のあなたの報告書は、残ります。

受理されたからです。

四十年で、一歩進みました。

一歩です。

笑ってしまうくらい、小さい。

でも、ゼロではありません。

追伸

用紙の下に、写真が一枚、貼り付けてあった。

粗い、白黒のファックス画像だった。

夜空だった。

三日月が、写っていた。

だが、向きが違った。

日本で見る三日月は、右下が光る。

写真の月は、左上が光っていた

ひっくり返っていた。

その下に、一行だけ、書いてあった。

同じ月です。

ミサキは、その紙を、床に置いた。

そして、その前に座った。

長いこと、座っていた。

同じ月。

同じ地球。

同じ自転。

回っているのは、一つしかない。

北から見るか、南から見るかで、逆に見えるだけだ。

それだけのことで、人は片方を嘘だと決める。

片方を切る。

片方に、四十年を使わせる。

ミサキは、床に指で、丸を描いた。

そして、その真ん中に、縦に線を引いた。

丸が、二つに割れた。

「……これだ」

割った瞬間に、どっちが正しいかの話が始まる。

右か左か。北か南か。時計回りか、反時計回りか。

割らなければ、そんな話は、起きない。

ミサキは、線を消した。

もう一度、丸を描いた。

今度は、線を引かなかった。

代わりに、丸の中に、点を一つ、打った。

「マル チョン」

点は、丸の中にいた。

外に出ていなかった。

対立していなかった。

ミサキは、その点を、長いこと見ていた。

半年後、ミサキは働き始めた。

別の会社だった。同じような仕事だった。

そして、彼女は、まったく別の結論を持って戻ってきた。

決めないと、しわ寄せは弱い人に行く。

梶は、四十年、南半球にいた。師匠は、二度と観測をしなかった。

決められなかったから、そうなったのだ、とミサキは思った。

誰かが、はっきり決めていれば。

上を説得できる形で、はっきり決めていれば。

そう思うことにした。

そう思わないと、朝、起きられなかった。

ミサキは、決める人になった。

十年後、彼女は現場の統括になった。

判断が速く、正確で、迷わなかった。

部下は誰も、彼女が三週間かけて「両方正しい」と書いたことを知らなかった。

彼女自身も、思い出さないようにしていた。

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