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第三章

赤いカーテンの向こう

パリ、1892年冬

ノックは三回、間を置いて二回。

マドレーヌはそれを聞いて、帳簿から目を上げた。 また彼だ、と思った。 足音でわかる。不均等な、右と左で重さの違う足音。 貴族の足音ではなく、でも物乞いの足音でもない。 この街の夜だけに属している種類の人間の、足音。

扉を開けると、アンリが立っていた。

短い脚に、大きな頭。口髭は手入れされているが、外套の袖に絵の具がついている。 右手にはスケッチブックを抱えていて、左手には——今夜はシャンパンの瓶を持っていた。

「マドレーヌ」と彼は言った。 フランス語だが、南の訛りが抜けない。 「描かせてくれ」

「いらっしゃい」とマドレーヌは言って、扉を開けた。


アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。

マドレーヌがその名前を知ったのは、彼がここへ来るようになって三か月ほど経った頃だった。 貴族の家の生まれで、両足が不自由で、モンマルトルの夜を描き続けている画家。 客ではなく、観察者としてここにいる。 女たちは最初、この奇妙な客に戸惑っていたが、やがて慣れた。 アンリの前では、誰も取り繕わなくてよかったからだ。

彼は女たちを、見た。

ただ、見た。値踏みするのでも、憐れむのでも、消費するのでもなく——ただそこにいる人間として、見た。

マドレーヌにはそれが、少し眩しかった。


サロンに入ったアンリは、いつものように隅の椅子に座り、スケッチブックを開いた。 シャンパンの瓶はテーブルに置いた。 飲むためではなく、女たちへの手土産として。

今夜はエロイーズが踊っていた。 客は三人。 窓の外では雪が降り始めていた。

マドレーヌは帳簿に戻りながら、横目でアンリの手元を見た。 鉛筆が動いている。エロイーズの輪郭を追っている。 素早く、迷いなく。

彼は踊るエロイーズを描いている。 わたしは帳簿の数字を追っている。

どちらも、この部屋を記録している。でも、残るものが違う。

マドレーヌはそのことに、その夜初めて気がついた。 気がついて、でもすぐに帳簿に目を戻した。 数字は待ってくれない。 女たちの顔は——いつだって、後でいいと思っていた。


夜が深くなった頃、もう一人、来た。

今度はノックなしで扉が開いた。 そういうことができる客が、一人だけいる。

背が高く、白髪で、年齢のわからない男だった。 三十にも見えるし、六十にも見える。 いつ来ても同じ顔をしている。 十年前もそうだったと、古株の女たちは言う。 二十年前もそうだったと、前のオーナーから聞いた。

サン・ジェルマン伯爵、と人は呼んだ。

彼はマドレーヌの隣に来て、帳簿を覗き込んだ。 覗き込む、というより——その数字の意味を、もうすでに知っているような目で、見た。

「今夜は雪だ」と彼は言った。

「ええ」とマドレーヌは答えた。

「マドレーヌ」と彼は言った。 「お前はいつまでこの帳簿を見ている」

マドレーヌは答えなかった。

答えなかったのは、答えがわからなかったからではない。 答えがわかっていたから、だった。


その夜遅く、アンリが帰り際に一枚の紙をマドレーヌに渡した。

スケッチだった。 エロイーズでも、他の女でもなかった。

帳簿を見ているマドレーヌの横顔だった。

誰かがわたしを、見ていた。

マドレーヌはそう思って、でも何も言わなかった。 紙を折りたたんで、帳簿の間に挟んだ。 数字と数字の間に、自分の顔を隠した。

窓の外で、雪が積もっていた。


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