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第五章

その夜

第五章「その夜」

インターホンが鳴ったのは、夜の10時を過ぎた頃だった。

「颯太だけど」

麻衣が鍵を開けると、颯太は、いつもよりも、長く、戸口に立っていた。

「今日、撮影で——堺に、行ってきた」

「うん」

「仁徳天皇陵」

麻衣は、何も聞かずに、メモ帳を取りに行った。

颯太は、靴を脱ぎながら、笑った。 自分でも、信じられない、という顔だった。

「今日のことは——たぶん、お前にしか、話せない」

「全部、話して」と麻衣は言った。

颯太は、ソファに座った。 窓の外には、いつもと同じ、光の多い夜景が広がっていた。

けれど、颯太の目には——その光が、少しだけ、違って見えていた。

「煙が、見えるか」と颯太は、ひとりごとのように言った。

「え?」

「いや」と颯太は、首を振った。 「——今度、動画にしたいことが、できた」

麻衣は、ペンを止めた。

「全部は、言わない」と颯太は言った。 「いつもの理論は、言わない。 ただ——仁徳天皇の話を、する。民のかまどの話を、する。それだけで——いい」

「見た人が、自分で、つなげる」と麻衣は言った。

「そう」と颯太は言った。 「俺が結論を、押し付ける必要は、ない。見たものを、渡すだけで——いい」

麻衣は、ペンを動かした。

言葉ではなく、行いだ。

そう、メモ帳に、書いた。

窓の外で、夜が、ゆっくりと、明けていく気配がした。


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