数日後。
颯太は、編集ソフトの前に、座っていた。
撮った映像は、ほとんど使わなかった。 古墳の遠景。案内板。それだけで、じゅうぶんだった。
台本を、何度も書き直した。
最初の下書きには、緊急事態条項のことも、過去にあった財産の没収の歴史も、全部、書いてあった。
颯太は、その下書きを、まるごと消した。
言葉ではなく、行いだ。
麻衣が、メモ帳に書いた一文を、颯太は、何度も、思い出していた。
新しい台本には、ひとつの逸話だけが、残った。
仁徳天皇が、高き丘から、民の竈を見た話。 煙が、立っていないのを見て、3年、税を免除した話。 宮殿の屋根が、破れても、直さなかった話。
颯太は、台本の最後に、ひと言だけ、加えた。
「——今、この国でも、同じように、高いところから、民の暮らしを見ている人たちが、いる。彼らの目に、煙は、見えているだろうか」
それ以上は、書かなかった。 書く必要がなかった。
颯太は、収録ボタンを、押した。
いつもより、声が、低かった。 いつもより、間が、長かった。 解説ではなく——語りに、近かった。
公開ボタンを、押す前に、颯太は、しばらく、画面を見つめていた。
終わるかもしれない。
それでも。
颯太は、ボタンを、押した。
