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第六章

選んだ言葉

第六章「選んだ言葉」

数日後。

颯太は、編集ソフトの前に、座っていた。

撮った映像は、ほとんど使わなかった。 古墳の遠景。案内板。それだけで、じゅうぶんだった。

台本を、何度も書き直した。

最初の下書きには、緊急事態条項のことも、過去にあった財産の没収の歴史も、全部、書いてあった。

颯太は、その下書きを、まるごと消した。

言葉ではなく、行いだ。

麻衣が、メモ帳に書いた一文を、颯太は、何度も、思い出していた。

新しい台本には、ひとつの逸話だけが、残った。

仁徳天皇が、高き丘から、民の竈を見た話。 煙が、立っていないのを見て、3年、税を免除した話。 宮殿の屋根が、破れても、直さなかった話。

颯太は、台本の最後に、ひと言だけ、加えた。

「——今、この国でも、同じように、高いところから、民の暮らしを見ている人たちが、いる。彼らの目に、煙は、見えているだろうか」

それ以上は、書かなかった。 書く必要がなかった。

颯太は、収録ボタンを、押した。

いつもより、声が、低かった。 いつもより、間が、長かった。 解説ではなく——語りに、近かった。

公開ボタンを、押す前に、颯太は、しばらく、画面を見つめていた。

終わるかもしれない。

それでも。

颯太は、ボタンを、押した。


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